【バルジ組織とは】

毛根部の浅いところにある浅部バルジ組織の発毛因子とは、なんにでもなれる細胞(幹細胞)のことを指しています。
この発毛因子が毛根部の深いところまで移動して、自ら毛の元になる毛母細胞や色素細胞になります。
この幹細胞は皮膚の欠損部の修復にも関与している可能性もあります。

【浅部バルジのみの損傷では永久脱毛はできない】

私は以前慢性期病棟の医師として数千人の褥瘡(皮膚に深い潰瘍ができる)の治療を行っていた時期があります。
褥瘡とは床ずれのことで、寝たきりなどで皮膚が圧迫された状態で血流不足になったときに潰瘍状の皮膚欠損ができます。
損傷の深さの程度はさまざまで、腰や骨の突き出ている部位足首などどこにでもできます。
様々な深さの皮膚損傷を見る機会があり、創部の毛の生え方を研究する機会がありました。
その際の経験から下記の結論にいたりました。

深部毛乳頭と浅部バルジ領域を両方損傷すると毛は生えない

この褥瘡部で毛の根元の深部毛乳頭と浅部バルジ領域(発毛因子)をすべて破壊された傷にできた治癒後の瘢痕からは毛が生えてこないのを確認しています。

浅部バルジ領域のみの損傷では毛は生える

逆に浅いところの潰瘍状の皮膚欠損部(毛根部毛乳頭が残っていて、バルジ組織は欠損しているモデル)では創部から毛が生えてくるのを、あらゆる深さの創で確認しています。
バルジ組織が完全になくなっても、深部毛乳頭が残っていれば、毛は生えるのです。

このバルジ領域のみを狙うという医療レーザー脱毛が流行っていますが、本当にこの部分に影響をあたえているかどうかは置いておいても、上記の経験からバルジのみを損傷しても永久脱毛は難しいと思います。

【バルジ組織は皮膚の再生全般に関わっている可能性がある】

浅部バルジ領域は幹細胞(なんにでもなって増殖できる細胞、間違って増殖すると癌細胞と同じ)領域であり、皮膚の再生全般にかかわっている可能性があります。
けがをした場合、バルジ領域の幹細胞から毛根部ではなく皮膚の方に細胞が移動して創が治ることが分かっています。
バルジ領域を狙った医療レーザー脱毛をやったあとだからと言って創が治らないことはありません。
実際にこれらのレーザーがバルジ領域のみをターゲットとしているかどうかは非常に疑問です。
また、バルジ領域を破たんさせると幹細胞が癌化するリスクも長期的には懸念されます。

【永久脱毛には深部毛乳頭の破壊が必要】

上記から結論を出すと、永久脱毛には毛の根元にある毛乳頭の損傷が必要といえます。
より確実にするならバルジ領域も同時に損傷する必要があるかもしれませんが、おそらく今のレーザーは黒い色素に光を吸収させて熱を出しているわけですので、毛乳頭とバルジ領域は両方損傷されていると考えられます。

【バルジを狙った蓄熱式脱毛の正体】

バルジを狙うとうたった蓄熱式の医療レーザーは、医療レーザーの波長(ダイオードレーザーやアレキサンドライトやYAGの波長のどれか、もしくは全部)を弱い出力にして何度も重ね打ちをして、熱をこもらせているわけです。
レーザー波長自体は同じなので、毛の黒い部分に反応させるのは同じであり、熱の出し方は従来のレーザーと全く同じです。
毛周期に関係ないとか、白髪にも効くとかはあり得ません。毛根部は損傷せずに毛の司令塔を損傷させるから、白髪や産毛に効くなどはあり得ません(白髪は熱が発生しないし実際白髪だけ残る症例がいくつも事実確認しています。
産毛は出力が弱い分熱の発生が少なくほぼ効かないと思われます)。
重ね打ちが本当に正確にすべての部位にできるのか(おそらく部分的に、本当にすべての部位で必要な熱が蓄熱されるかどうかは別として、いろいろな波長を含んで弱くあてるエステサロンの光脱毛と組織学的に損傷させている部分と程度はほぼ同じと言わざるを得ません。
痛くないということは、熱は40℃くらいが限界であり、それでは蛋白は変性しないため、そもそも組織を破壊するとはいえず、バルジ領域を温めて影響を与える程度でしょう。
痛い思いして毛根部を破壊しなくても、バルジ領域をちょっと温めたら毛が生えなくなるよといわれても、効果が少ないことは想像できると思います。
エステサロンの脱毛は法律で組織破壊は医療行為だから規制がかかって弱い出力の光で頑張っているわけです。
そもそもその理論からいえばこれらの蓄熱式の医療レーザーは、組織破壊がないので光エステサロンでも使えるということになります。

光脱毛にしても、医療レーザー脱毛にしても毛が抜けたら効果があったというのは間違いです。毛は刺激するとすぐ抜けてしまう理由を次に説明いたします。

【毛根部の血流低下だけで毛は抜ける】

髪の中のできものの切除手術などで髪の毛の皮膚を切除して縫合すると、縫合部の毛が抜けて生えてこない(禿創)をよく経験します。
皮下脂肪層までしっかり切除した場合のみに禿創がおきます。
当たり前のようですが、毛根の毛乳頭部とバルジ領域(発毛因子)を両方完全に除去すると髪の毛が生えないことの事例です。
ただ、この禿創は縫合部の線状部分だけでなく周囲にもやや広く毛が抜けます。瘢痕部周囲の正常な毛根部、バルジ組織の部分も何らかの影響をうけて毛が抜けているのです。これはおそらく、縫合糸で組織が縛られて血流が低下することや免疫応答によるものだと思われます。

毛根部毛乳頭、バルジ領域が破壊されてなくても、少し毛根部の血流が低下しただけで毛は抜けるのです。

【永久脱毛は脱毛した毛がどれだけ戻らないかが重要】

光脱毛や医療レーザーはとりあえずある程度熱が発生すれば毛は抜けます。血流が悪くなった分復活に時間を要します(数か月から数年と幅がある)が一部戻ってきます。
光脱毛や蓄熱型医療レーザーはこの復活の割合が大きいということです。

今のところ毛根部毛乳頭とバルジを最も効率よく両方倒せるのは、ワンショットタイプの従来型医療レーザー脱毛のみであると私は考えます。
ワンショットタイプでは、復活が最小限であることを自分自身の脱毛でも確認しています。

数十年の臨床経験でそれが覆されるか、組織検査を誰かがするまでこの考えは変わることはないと思います。